2024/12/06 15:19
明治政府による廃藩置県から沖縄戦、そして戦後から現代までの時代を通して、ある一族の物語を語り伝えるという壮大な構想が著者にあるのだろう。第1部では東北地方を出自とする一族の起源から書き起こし、曽祖父の沖縄への移住、沖縄戦の前夜までを描いている。
そして、本書第2部ではついに沖縄戦が始まる。それがもっとも著者が描きたかった出来事だということは、綿密な資料収集により、当時の社会や日常生活が正確に再現されていることから見てとれる。
この物語は自らの一族の来歴-その中で沖縄戦は大きな位置を占める-を小学生たちに伝えることを目的にしたためた手紙という体裁をとっている。南米の架空の国ホリヒアに移住している手紙の書き手(80代後半)は、自らの少年時代を振り返り当時の記憶を何とか形にしようと、子供たちに手紙を書き続ける。
作中では沖縄の歴史や沖縄戦の実相が詳細に述べられている。膨大ともいえる資料参照は著者の平和への希求を際立たせる。ややともすると、教科書的な事実の列挙のみに陥るところを免れているのは、文章を紡ぐ著者の豊かな感性のおかげであろう。たとえば、「10・10空襲」で破壊された那覇市街を歩いて逃げる場面。「そこへ海風が吹きました。普段は多くの建物にさえぎられて届くことのない、潮のにおいをたっぷりとふくんだ風が頬を撫(な)でたのです」。少年の目を通して爆撃の現場に遭遇する読者は、海の気配がないと思われる那覇市内の中心で、ふと潮のにおいを嗅ぎとる感覚にとらわれるのではないか。そこに小説を読む面白さがあり、そのような些末(さまつ)とも見える細部にこそ、戦争のリアリティーを伝えるものがある。
「第2部のおわりに」によると、手紙の書き手は、沖縄戦終結からホリヒア移住など第5部まで書くことを予定しているという。私たちは沖縄戦の影をいまだ社会のあちこちに見いだす。語り手の南米への移住にもその影響があるのかもしれない。沖縄戦を巡る物語は現在進行形で続いていく。(崎浜慎・作家)
(写図説明)沖縄タイムス社・1760円/てるい・ゆたか 1964年横浜市生まれ。1987年「フルサトのダイエー」で第13回新沖縄文学賞。著書に「さまよえる沖縄人」「復国の大地 第1部」