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御後絵の色を負って 七十八年の沈黙の果て、海を越えて戻った琉球王の肖像

¥1,980($12.59)

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「琉球の色」を取りもどす。沖縄戦で米国へ持ち去られ、白黒写真のみが残された琉球王の肖像「御後絵(おごえ)」。沖縄のアイデンティティと情熱を胸に行方を追い続けた、沖縄人(ウチナーンチュ)の探究の旅路。

四六判/並製本/328ページ

序章 1
第一章 流出文化財との出会い
第二章 『おもろさうし』の返還
第三章 御後絵のFBI盗難美術品ファイル登録
第四章 御後絵との対面
第五章 沈黙を破るメモ
第六章 最古の絵巻物と「ニシムイ」美術村
第七章 米国所在の沖縄の文物の移動の背景~修士論文の概要
あとがき

まえがき
二〇二三年の初めごろ、突然知人の男性から私が勤める「ぬちまーす」の事務所に電話が入った。
「中城御殿から持ち出されていた文化財が何点か、FBI関連で見つかったらしい。まだ確認がとれてないようだが」
どことなく、周囲を気にしながら話しているような気がしたので、私もつられて小声で尋ねた。
「御後絵も見つかったのかしら」
「そうらしい」
「ボストン近郊で?」
「そこまではわからない。まだ確定ではないので」
彼は急いで私に知らせたようで、すぐに電話を切った。
天から降ってきたようなニュースに意表を突かれ、私は一瞬放心状態になった。すぐにこみ上げてくる喜びで胸が高鳴り、目が潤んできた。喜びを抑えきれずに、すぐ社長室にいた弟に報告に行った。
「御後絵がアメリカで見つかったらしい。私がきっかけを作ったのよ」
書類に目を通していた弟は顔を上げた。
「オゴエってなに?」
「歴代の琉球王の肖像画で、八十年も前に戦利品として持ち出されて行方不明だったの。それが見つかったらしいの」
「それはよかったね」と一言。
事の重大さを弟が認識できないのは当然のことだと思いながらも、私自身も心が高ぶっていてそれ以上説明をする心のゆとりがなかった。事情がよくのみ込めず、無言で私を見つめる弟を部屋に残して、自分の机に戻った。まだ興奮さめやらぬ状態で、胸の動悸が収まらなかった。
すぐにまた、電話が鳴った。先ほどの彼である。
「さっきの件、喜ぶと思ってすぐに知らせたけど。県側の確認がまだのようだ。極秘らしい。他言無用です」。今度は明らかに小声で話していた。とっさに彼のおかれた状況を察して、「わかった」と何も問わずに電話を切った。私に電話をかけた後に「極秘」だと知らされたようだ。「まだ極秘です」と担当者にでも言われたのか、慌てて口止めの電話をしてきたのだ。
「まだ確認が取れてない」と言われても、私には確定と言われたのも同然だった。贋作もありうる。しかし、こんな大きなニュースが確認もされないまま公の機関から私にまで伝わることは絶対ありえない。きっと見つかったのだ、沖縄県かFBIか、何か手続きのためにまだ公表できずにいるのだ、と無意識に前向きに考えていた。この大きな喜びに浸っていたかった。
私は沖縄県立博物館・美術館か、かつての職場である在沖米国総領事館に電話を入れて確かめたい衝動に駆られたが、「極秘」と言われているし、電話をしてきた彼の立場もある。電話をかけるのを我慢しながら、何日も落ち着かない状態で過ごした。
しばらくして、今度は別の方から、「まだ公表できないらしいが、見つかったらしいね」との連絡が入った。この一大ニュースを早く知らせなくてはと思う方がいて、その方に電話をかけると、「そうらしいね。知っていたよ」と落ち着いた返事が返ってきた。私が慌てふためいて知らせなくても、知っていてもおかしくない立場の人は少なくないはずだとの思いに至った。このようなビッグニュースを何カ月も極秘にできるはずはないと思っていた通り、少なからぬ人が知っているようだった。
二〇〇〇年の九州・沖縄サミット開催当時、私は在沖米国総領事館の広報文化担当補佐官の職務に就いていた。私は①アメリカに流出した沖縄の貴重な文化財を見つけ出し、クリントン大統領から沖縄に返還する、②アメリカにある沖縄の漆器コレクションの「里帰り展」を開催する、という二つの企画を提案した。これらの企画は実現しなかったが、その結果、「長期的な立場から、盗まれていった戦利品を見つけ出す方法を調査するため」に、沖縄の専門家三名を米国に招聘することになった。その招聘が二〇〇一年のFBI盗難美術品ファイル登録を可能にし、今回の御後絵の返還につながった。
その後、三月十五日にメディアに公表されるとの情報も入ってきた。さらに、御後絵のお披露目式への招待状が沖縄県から私にも届いた。私の胸は期待で大きく膨らみ、浮足立った。FBIファイルへの登録から数えてもすでに四半世紀が過ぎている。どのような色彩なのかと幾度も思い描いていた肖像画を一日も早く目にしたいと切望した。
しかし、公開日はまだ先だ。ゆっくりとした時間の流れの中、私が流出文化財に関わるようになったきっかけやその後の出来事が蘇ってきた。

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